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2011年10月8日土曜日

2011年10月8日放送 NHK『サイエンスZERO シリーズ原発事故2 農作物の汚染を見極めろ』

2011年10月8日放送 NHK『サイエンスZERO シリーズ原発事故2 農作物の汚染を見極めろ』

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─ 東京電力 福島第一原発の事故。
─ 外部に放出された放射性物質の量は、57京ベクレル
"データ提供 国立環境研究所"   
─ チェルノブイリ原発事故とならぶ重大事故となりました。私たちがふだん口にする食品にも、大きな被害がでています。国の暫定基準値をうわまわる汚染が、つぎつぎと検出されているのです。目に見えない放射性物質が、消費者を不安にさせ、農家を苦しめています。

"福島県の自治体の首長"
「この原発の放射能の影響を受けている多くの(農家の)みなさん、加害者ではなくて被害者なんです。」

─ どうすれば農作物の安全を取り戻せるのか、研究者たちが汚染された大地と向き合っています。研究から、農作物が汚染される意外なメカニズムがあきらかになってきました。さらに手つかずの汚染地帯の存在も、浮かび上がっています。今夜は、農作物の放射能汚染を見極める、被災地からの最新報告です!



サイエンスZERO
 シリーズ原発事故2 農作物の汚染を見極めろ



"山田賢治" "安めぐみ"
K「今夜は、いまも不安が消えない農作物の放射能汚染がテーマです。」
M「はい。農作物は私たちが直接口にするので、とても心配ですよね。一方で農家のかたたちもとても大変な思いをされていますよね。」
K「そうでしょうねぇ。影響が広がっているわけですけれども、今日はこの問題について室山哲也解説委員と見ていきます。」

"室山哲也 NHK解説委員"
T「私は25年前のチェルノブイリ原発事故以降ですね、半年間ぐらいのべ4~5回現地に入って取材をしたんですが、食べ物には十分注意をして取材したんですけれども、日本へ帰りますとやっぱり内部被曝をしていたんですね。やはり科学的にそのプロセスをちゃんと解明して、対策を講じていくことが大切なことだと思います。」

K「それではまず、こちらをごらんください。今回の事故で放出された放射性セシウムの、地表面への沈着量を示した地図です。」
"データ 文部科学省"     
M「こんなに広範囲に影響がでているんですね。まだら模様で複雑ですね。」
T「そうですね。チェルノブイリのときもおんなじですけれども、事故直後は同心円上に対策を講じていくんですが、放射性物質が放出されたあとは自然環境、たとえば風の向きだとか、それから地形だとか、雨が降るとかいろんなことが起きますよね。それらが複雑な自然のメカニズムのなかで、どうしてもこういうのはまだら模様になっていくわけですね。
日本のばあいは、こういう形の汚染地図ができているということですね。」
K「ですから対策は非常に難しいわけですけれども。そうした中で、いまも国の暫定基準値を超える農作物が出ています。」
M「はい、原発事故直後よりも減りましたが、いまも農作物汚染のニュースがつづいていますよね。」
K「そうですね、そこで農作物の放射能汚染を減らすために、福島の研究者たちが地道な調査をつづけています。」



─ 福島第一原発から、60kmの地点にある、郡山市の農地。

ピッピピピッ……

─ いまここで、農作物の汚染を調べる研究が進められています。
農地があるのは、福島県農業総合センターです。
─ 試験用の畑や水田はおよそ3600ベクレル/1kgの放射性物質に汚染されてしまいました。センターではこの汚染された農地で、あえて農作物を育てています。放射能汚染がどのような影響をあたえるのか、ナス、キャベツ、コメなど42種類の作物を栽培して正確に把握しようというのです。

─ 収穫した作物を分析器にかけ、放射性物質の量を測定していきます。調べようとしているのは、農作物の汚染されやすさをしめす移行係数という数値です。
─ 農地の土壌は、原発事故ででた放射性セシウムなどで汚染されています。作物を育てると、土壌にたまった放射性物質が根から作物へ吸収されます。
─ 移行係数は、放射性物質がどれくらいの割合で吸収されるかをしめす値です。たとえば土壌の汚染が100ベクレル/1kgだったときに作物が40ベクレル/1kgだと、移行係数は0.4になります。放射性物質の吸収量が多いほど移行係数は大きくなります。

コメのばあい、放射性セシウムの移行係数の指標は、0.1とされてきました。ところが実際にコメを実験栽培したところ、62,800ベクレル/1kgの土壌で育てたコメ(玄米)の放射性物質は49ベクレル/1kg、移行係数は0.0008。条件を変えても、移行係数は最大で0.017。想定を下回る値でした。

"コメ(玄米) 移行係数=0.0008~0.017"

"福島県農業総合センター 藤村 恵人 副主任研究員"
思っていたよりは放射性セシウムを吸収しないなということがわかってきました。
(土壌)5000だと(コメ)100は絶対いかないということになりますし、おそらく50以下という値になりますね。計算上はもう(暫定)基準を超えるという可能性は非常に低いといえると思います。」

─ なぜ福島では、コメの移行係数が想定より低くなったのか。佐藤睦人さん(福島県農業総合センター 科長)は、土壌の違いが原因ではないかと考え、さまざまな作物を使って調べました。


─ 佐藤さんがおこなった実験です。同じ作物が植えられた二つの鉢。土壌の放射性物質の濃度も同じです。しかし、それぞれの移行係数を比べると、五倍の開きがありました。

"0.005" "0.001"

─ 移行係数が高かった左側の土と、低かった右側の土、いったいどこが違うのでしょうか。
─ 両方の土を水に溶かしてみると、違いがはっきりします。30分後、左側は濁りがおさまりはじめていますが、右側は濁ったままです。濁りの正体は、粒の細かい粘土。移行係数の低い土には、粘土が多く含まれていたのです。

─ 砂などの粒子では、その表面に放射性物質が付着します。
─ 一方で粘土は、粒子の中に細かく層になったすきまがあります。放射性物質はこのすきまに入り込み吸着されます。そして粒子の表面にある放射性物質が、根から作物へ吸収されます。
─ そのため粘土が多く含まれる土で作物を栽培すると、移行係数が低くなったのです。


"福島県農業総合センター 佐藤 睦人 科長"
粘土が多いところ、そういう土壌につきましては植物に放射性物質が吸われにくいということがわかってきております。
福島県、東北(地方)もそうなんですけれども、そういう土壌がわりと多いと。
さいわいなことに、土が植物を汚染から守ってくれたということです。」


K「スタジオには放射性物質の測定がご専門で、福島県の農作物の汚染調査もしていらっしゃいます大槻勤さんにお越しいただきました。よろしくお願いします。」
M「農作物の、放射性物質の吸収に、土がかかわっているということなんですね。」

"大槻 勤 さん 東北大学 原子光理学研究センター 准教授"

O「えーっとですね、土にはいろいろありまして、放射性物質の移行係数というのがあります。移行係数は、地面から植物に吸い上げる力のようなものなんですけれども。その土の種類には、粘土質、あるいは砂地、の多いところ、あとは混じったところですね、いろんな状態が考えられます。
まずはその粘土質と砂地の多いところとか、そういうところのメカニズムをきちっと調べていくということが重要になるのではないでしょうか。
いまそれは時間をおって、研究段階で、私たちが調べている研究テーマでもあります。」
T「粘土質は放射能の取り込みに関係しているということはわかったんですが、実際に福島などの放射性物質が問題になっているエリアでは、どのようにそれが分布しているのか、そのへんが問題だと思うんですが、それはいかがでしょうか。」
O「そうですね、福島は60~70%、粘土質の土地だといわれてます。ただし、森に近いほうの土地とか、山砂の入っているところとか、そういうところは粘土質が少ないといわれております。」
T「なるほど。こないだ二本松市、(2011年)9月23日にコメの予備調査で暫定基準値と同じ500ベクレル/kg…」
O「はい、はい。」
T「粘土質であれば、そんなに高い数値は出ないと思うんですけれども、そういう数値が出て関係者を驚かせているようですが、やはりそれは土の質と関係していると考えていいのでしょうか?」
O「ポイントはそこだと思いますね。」
K「はい。その原因をつきとめるためにですね、今月(2011年10月)2日500ベクレル/kgのコメが見つかった田んぼを専門家が緊急調査しました。
大槻さん、この調査からどんなことがわかったんでしょうか?」
O「そうですね、この二本松の水田は、比較的砂地が多い…、粘土質よりも砂地が多い地点で。
ですから、砂地は放射性物質を粒子の中に取り込みにくい、粘土質になりますと粒子の中に放射性物質を取り込んでいく…というようなメカニズムが考えられると思います。」
T「たしかにVTRを見ると、砂地だなとわかるんですけれども。
それ以外の要素ですよね、まわりの環境もいろいろ複雑なようですが、ほかの要素は何かないのでしょうか?」
O「そうですね、ここは棚田のところですから、まわりの森林ですね、森林から流れてくる水。あるいは水の酸性度とかですね、有機物がどれだけあるかとか、そういうメカニズムも関係してくるかと考えられています。
そのほかにもあるかとは思いますけど、現在いろいろ調べている段階ですね。」
M「お米以外、野菜の移行係数はどうなっているんでしょうか?」
O「野菜はですね、現在のところ非常に低く推移しています。いずれの野菜も移行係数が0.01以下と、小さいことがわかりました。」
野菜の移行係数
アスパラ0.0069
トマト0.0036
キャベツ0.0047
小松菜0.0022
ナス0.0023
きゅうり0.0046
じゃがいも0.0007
にんじん0.0008
福島県農業総合センター 調べ
O「原発事故が起こった当初はですね、いろいろな放射性核種が出てそれが降下物として野菜についていました。それが、基準値をうわまわった原因でないかと私たちは考えています。
現在あるのは、ほぼ放射性の134セシウムと137セシウムが主だった核種になっています。ほかの核種もあることはあるかと思いますが、非常に低いレベルですので、それは問題にならないかと私たちは思っております。」
K「いま、その野菜の基準値超えというのはどうなんでしょうか?」
O「それは、いまはすべてないと考えています。」
T「今日は、土だとか…。いろいろなメカニズムで、移行係数ですか放射能がどれだけ入るかというそういうメカニズムを、科学的に調べているんだけれども。
私たちの最大の関心事は、農作物が本当に安全なのか、食べていいのかということですね。だけどその作物が非常に多いので、どのようにチェックして安全なシステムにするかということだと思いますが。
そういうことと、科学的なことと、どういうふうに関係づけていけば良いのでしょうか。」
O「ええ、あの…、すべての農作物を…。
いま私たちのゲルマニウム検出器、ようするに放射線検出器を使って、測定してるわけですけれども、すべての出荷する農作物を検査するわけにはいかないんですね。ですから地点を限って、それから土壌の濃度を限って、どれぐらいの移行係数が出てるかというのを、地区地区で調べて安全を担保してあげるというのが重要なテーマとなっております。
T「それをやりながら少しでもゼロに近づけていく努力をするということで…」
O「そうですね。はい、いま基準値が500ということですけれども、限りなくゼロに近づけていく必要があるかと思います。」



K「はい。さて。
今もですね、暫定基準値を超える汚染が見つかっている農作物があります。」
暫定基準値超えの農作物
1件小麦
野菜0件
果実8件ビワ、イチジク、ユズ、クリ
豆類0件
イモ・茶類26件荒茶、生茶葉、製茶、なたね
きのこ等22件原木しいたけ、マツタケなど
検査期間 7月1日~9月21日 農林水産省まとめ

K「7月から9月にかけて、お茶などで500ベクレル/kgを超える放射性物質が検出されているんですね。
そこには、コメや野菜とはまったく違うメカニズムが働いていました。」


─ 先月、埼玉県産の一部のお茶から、暫定基準値を超える放射性セシウムが検出されました。福島第一原発から200km以上も離れている埼玉で、なぜ高濃度の汚染が起きたのでしょうか。"データ提供 国立環境研究所"


─ 事故発生後、大量のセシウムが原発から放出され関東地方に広がりました。このとき、お茶の木には古い葉が茂っていました。飛んできたセシウムは葉の表面に次々と付着します。お茶の葉は、このセシウムを内部に吸収してしまいます。葉面吸収と呼ばれる現象です。

─ さらに、新芽が成長するときに、栄養分とともにセシウムも送り込まれ汚染が広がりました。葉面吸収というしくみ、そして、事故当時に葉を茂らせていたことがお茶の汚染の原因だったのです。


─ ところが、葉面吸収では説明できないできごとが、福島県で起きていました。

"福島県農業総合センター 果樹研究所"

─ 全国二位の生産量を誇る、福島の特産、桃です。一部の桃から、暫定基準値より低いものの100ベクレルを超える放射性物質が検出されました。
─ 放射性物質が大量に飛散した時期、桃は葉をつけていませんでした。葉面吸収が起きないにもかかわらず、なぜ桃から放射性物質が検出されたのでしょうか。原因の解明に取り組んでいる、福島県農業総合センターの佐藤守さんです。

"福島県農業総合センター 果樹研究所 佐藤 守 専門研究員"

ピピーピピピッ…
「全然違う」

─ 佐藤さんは一本の木でも場所によって放射線量が異なることに気がつきました。「この樹皮表面、比較的ツルツルの状態のところ、ここで測ってみると(放射線量が毎分)1.5kCPMぐらい。
凹凸の激しいところで測ると、3.0kCPM。二倍くらいになってますよね。」

─ 同じ幹でも、樹皮がツルツルした場所とゴツゴツした場所では、検出された値が大きく異なっていました。このことから、葉ではなく幹が汚染の原因ではないかと考えています。

─ 佐藤さんが推測するメカニズムです。
─ 事故により放射性物質が木全体の表面に付着しました。そして雨が降ると、あのゴツゴツした部分に雨水とともに放射性物質が溜まっていきます。その後、葉が茂ります。このとき幹の表面から放射性物質が吸収され葉へ送られていきます。そして、実が実る過程でこんどは葉から実へ移行していったのではないかと考えられています。

─ この推測をもとに福島県では、来年に向けた対策を始めています。


"対策1"

─ 桃の木に吹きつけているのは、高圧の水です。高圧洗浄機で幹に溜まった放射性物質を洗い流します。これまでの実験で、幹に溜まった放射性物質の、およそ5割を取り除けることがわかりました。


"対策2"

─ 一方、ナシやブドウの木では、皮をまるごと削り取る方法も試されています。
「800CPMていどまで低下しております。」
─ 皮を削る前と後で比較すると、ナシやブドウではおよそ9割もの放射性物質を取り除けることがわかりました。
「汚染源と想定される部分が効果的に除去されますので、来年はND(検出なし)。確率的にもほぼNDの確率は高いんじゃないかというふうに期待してます、はい。」


M「果物やお茶は、放射性物質が溜まりやすいということなんですね。」
O「はい、えーっとですね、あのー、
空から降ってきた降下物、放射性セシウムは、いまのところ地表5cm以内に九十数パーセントあるといわれています。
で、樹木のばあいは、30cm40cmのところに根があるものですから、根っこから樹体あるいは果物に吸い上げられるということは考えづらいのですね。
そのかわりに雨で降ってきたものが、幹・皮について、そこから果物にいくということが非常に重要なプロセスではないかと私たちは考えています。
まだまだ研究の段階は進んでいますけれども。」
T「そうすると、今までは根から吸収というのがあって、こんどは葉を経由して吸収というのがあって、いろいろ出てきましたよね、」
O「そうですね。」
T「もう、ないんですか?
これから先、研究はそういうプロセスについてどういうふうな…?」
O「いや、すべて、根っこからも含めてですね、すべて100%どういう形で皮、樹皮・樹木の中、葉っぱ、それから果物の皮、果物の種、そういうところにどうふうな形で入っているかというのを、すべて調べる必要があるんです。」
T「まだまだ足りないんですね。」
O「はい、はい。」
M「うーん、とにかく早く安心して農作物を食べられるようになりたいですねぇ。」
K「そうですね。」



K「ここまでは農作物の放射能汚染について見てきましたが、いまもなおですね、さらなる汚染につながる可能性のある場所があります。
それが、森林です。こちらをごらんください。福島県周辺の衛生写真ですが、ここに汚染マップを重ねてみますとこのようになるわけです。」M「はい。森林にも汚染が広がっているんですね。」
K「福島県は森林が面積非常に広くて、65%を占めているわけなんです。まだ放射能汚染の実態が、この森林ではよくわかっていないわけですが、その現場に、入りました。」


"福島県 伊達市"

─ 福島県の森林の放射能汚染は、どうなっているのか。放射性物質の植物への影響を調査している、村松康行教授です。

"学習院大学 理学部 村松 康行 教授"

「いま、いくつぐらいですか、それは?」
「あっ、ちょっとガクッと上がりましたね…」
「上がりました?」
「樹林帯に入ったとたんに、1.86(マイクロシーベルト/時)。」
「1.86。」

森林は平地に比べて放射線が高く検出される傾向があります。なぜでしょうか。

─ (2011年)3月、相次いで建屋が爆発した福島第一原発。放射性物質は上空を放射性プルームと呼ばれる霧のような状態でただよいます。
─ このプルームが山にぶつかることで放射性物質が付着します。さらに山の木々がプルームを漉し取るような役割を果たし、より多く汚染されたのです。


─ 今回の森林調査で、村松さんがとくに分析したいと思っているものがありました。落ち葉の中や、木の根元に生えている、野性のキノコです。
─ 分析してみるとキノコからは、数千から数万ベクレルという高濃度の放射性物質が見つかりました。なぜキノコは、これほど汚染されていたのでしょうか。

「キノコの元…、キノコには根がありませんで、中に菌糸というカビのようなものが広がってますけれども、これをこう取っていきますと、マット状に白いもの(菌糸)が広がっているのが見えますね。」

─ 汚染の原因は、その地下に広がるこの菌糸にありました。じつはキノコは、その地下の広い範囲に菌糸をはりめぐらせています。本来は地表のキノコへ栄養を運ぶ菌糸が、広い範囲の土壌からより多くの放射性物質を集めていたのです。
─ さらに菌根菌とよばれる種類のキノコは、木と栄養のやりとりをする共生関係があります。これが森林の汚染を深刻なものに変えると、村松さんは考えています。

─ 原発事故は森の姿をどう変えてしまったのでしょうか。木についていた放射性物質は、落ち葉によって地表に落ちます。
これをキノコが集めて、木に吸収されやすい形にします。菌根菌は木に栄養となる無機物をあたえる役割をしています。
そのため、大量の放射性物質が木へと移動。その放射性物質は落ち葉を介して、ふたたびキノコに濃縮されます。本来は豊かな森をつくってきた自然の循環が、放射能汚染が果てしなく巡る循環へと、姿を変えてしまったのです。

「森林が多いですね。また山も多いですので、そういうところに常に汚染物質が残っているということは、そこから川も流れていきますし、ときどき土砂も崩れたりしていきます。
そういうものが…、ふもとに住んでいる人に影響を及ぼすということがあります。
汚染源である森林をずっとそのままにしておくということは、大変まずいと思います。
そういう意味で対策をしていくと。その対策をするためには、ちゃんといま研究を進めて、データを取ってくることが必要となってくると思います。」


M「うーん、森林の近くに住む人も多いですから、線量の高さというものは、とても気になりますよね。」
T「そうですねぇ。
さきほどの汚染地図というものを見ますとですね、森林…、
これ見ていただくと原発近辺はもちろん汚染が激しいんですけれども、よく見るとずっと左のほうまで汚染が伸びてますね、先生、ね。
そこには森林があるわけですけれども。私たちはトレッキングしたり、森の中に入って楽しんだりするときに、どのようなことを気をつけてやっていけば良いんでしょうか?」
O「そうですね、この(汚染地図の)緑の部分はですね、60万~100万ベクレル/m2という汚染された土壌があります。
ですからここの土壌から野性のキノコとかですね、野性のものをとってきて食べる、動物も含めて山菜も含めてですねそういうことは気をつけなきゃいけないと考えられます。」
T「これ(汚染マップ)、ずーっとカメラを左下にいきますと、ずーっとこう伸びていますよね。原発から遠いところまで。
このへんではどうすればいいのでしょうか?」
O「このへんは、そういう食べ物に注意しなければ。トレッキングあるいはキャンプ、そういうことは十分可能ではないか。」
T「野性のキノコをとって食べたりは、ひかえたほうが…?」
O「そうですね。そういうふうに思います。」
T「こうやって見ますと、森っていうのはですね、複雑な環境ですよね。生き物、植物がいて生物がいて、地質があって、水が循環していて。しかも植生ですね、いろんな種類がある。それがぜんぶ、からんでますよね。」
O「そうですね。」
T「そういう汚染地帯において、これから何を研究してどうしていけば良いのでしょうね。」
O「そうですね、広い目で山から川に水が流れ、あるいは川から海に、そういう循環があるわけですけども。
かなり広い地域でその循環体制、あるいは空気の循環、そのメカニズムをすべてに対して探ってですね、その循環体制、あるいは放射性セシウムの移行形態をすべてシミュレーション、あるいはじっさいに調べていくかということが重要になるかと思います。」
K「調査をして、対策をして、その効果を検証してというのを、徹底的におこなっていただいて、少しでも放射能汚染を減らしてほしいなと思います。」
M「はい。」
O「それで、やはり人類に負の遺産をできるだけ少なくすると。私たち研究者がそれに対して頑張っていくというのが、非常に重要になるのではないでしょうか。」
K「はい。」
M「はい。」
K「ありがとうございました。」
M「ありがとうございました。」


文字起こし ここまで

ひなげし陽気』の中の「NHKと原発 2
の参考記事にさせていただきました。

2011年9月27日放送 NHK 『視点 論点』

2011年9月27日放送 NHK 『視点 論点』

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『視点 論点』2011/09/27

科学ジャーナリスト 小出五郎
「放射能の不安を越える力」


(字幕 / 元NHK解説委員 原子力・放射線に関する著書多数)

先日福島で「NHKすくすく子育てふれあいミーティング」という催しがありまして、そこで若いお母さんにアンケートをしました。
子育ての悩みがある中で、原発震災から六ヶ月を過ぎた今、放射能汚染に対する不安心配が、ますます膨らんでいるという現状がわかってきました。

放射能に対する不安心配ということなんですけれども、

●子どもの被ばくの影響
●外遊びすれば被ばく、しなければストレス
●食べもの飲みものの安全性
●いまのまま福島に住んでいいか
●情報の洪水。でも、信じられる情報がない
●疎開しないのは悪い親という重圧

不安心配は始終さまざまでした。

●子どもが将来、福島で生まれ育ったことで就職結婚で差別されるのではないか

これには胸がつまりました。
差別されない、差別しないというのは、人間社会の基本的倫理です。
福島の産品を福島産だからという理由で拒否をした、こういうニュースを耳にいたしますと、放射能汚染問題は私たちの国全域に広がっているばかりか、心の中にまで広がっていることがわかります。

放射能汚染問題は、まだ長く続きます。
低線量被ばくの不安は消えません。
そこから生じる不安心配を乗り越える力が、今必要になっていると思います。

では、いったいどうするかということなんですけれども、難しいことではあるんですが、自分で判断する力を身につけ、判断できる環境を作る行動をするしかない、それが不安を越える力につながります。
たとえば食品の汚染の問題です。
日本中どこでも心配していることなんですが、政府の示している食品は、キログラムあたり500ベクレル、水は200ベクレルという基準があるわけですが、その基準に対して自分や家族の需要にしたがって「我が家の基準」というのを作ってみたらどうでしょうか。
子どもはさらに低めに設定をする「我が家の基準」です。
そして消費者として、我が家の基準で判断をして、公認をする。
それができるようになる条件というのは、食品の放射線レベルの表示です。
食品には材料とか栄養成分とか産地など表示されているわけですけれども、それと同様に○○ベクレルという表示が不可欠です。
そのためには、生産者・流通業者が流れ作業で測定できる機械装置が必要であるとか、あるいは、制度が大変重要です。
コストが上がる可能性があるわけですけれども、表示は安全の付加価値といえます。
一番重要なポイントということになりますと、表示の元になる、汚染に関する完全な情報公開です。
この情報公開を求めるということが重要です。
また、家庭菜園の作物、あるいは表示のない食物については放射性セシウムのレベルを自分で確認できるような、「立ち寄り測定器」というんでしょうか「街角測定器」のようなものが、たとえば地域の学校単位に設置されていたら、自分で判断する時に役立ちます。

放射能汚染の程度と除染のヒントというのも、だんだんあきらかになってきています。
その一例なんですけども、土壌の中の放射線セシウムの濃度これを調べたもの(グラフ)でございます。

土壌の中の放射性セシウム濃度(郡山市、水田)




0cm放射能の強さ →


34,000Bq



5cm






10cm




15cm

01万2万3万4万

(塩沢昌 ほか)


原発からの放射性セシウムが降ってきて土壌に積もったときから、二ヶ月以上過ぎた5月24日の様子を示しています。
セシウムは、こうして見ますと、表層の方にたまっている。
降ってきたセシウムのおよそ88%が深さ3cmまでのところにあり、96%が深さ5cm以内に残留をしているということがわかりました。
かなり深く20cmぐらいまで届いていることは届いているのですけれども、7cmより下というのは、本当にごくわずかでした。
そしてこの点線(0.4万ベクレル)のほうなんですけれども(注=上図には書いてありません)、大きな機械を使って地面を深く耕起したということなんですけれども、このばあいはセシウムは上のほうも少なくなりますが、下のほうまで同じぐらいのレベルでずっとつながっているということになります。
なぜセシウムが土壌にとどまるのか、土壌中の鉱物と固く結びつくために移動しにくくなるということなんですが、詳しい理由はまだよくわかっていません。
いずれにせよ、比較的土壌の表層に溜まっているということは、除染のヒントになります。
大型機械で表土を大々的に取り替える代行時をする必要はなく、もちろん放射能の測定といいますか、汚染の状況をしっかりと測るということが前提ですけれども、小型の機械や人力によって、たとえば雑草の根を含めて表土を掻き取るようなイメージで作業をすれば大きな効果が期待できるということになります。
もちろん吸い込まないようにマスクは欠かせませんが、やりようによっては、地域社会とボランティアで協働も可能ではないでしょうか。
そのための安全な作業のやりかたであるとか使いやすい道具の開発、制度的サポート、なかんずく除去した表土の保管場所の決定など、具体的な政策が必要な段階になってきています。

もう一つ、長期間に渡る低線量被曝の影響といえば、一番心配なのはガンです。
こちらはガンの原因となる因子というものなんですけれども、その原因を示す概念図です。
  円グラフ...[※小数点のないものは、数字表記がなかったため角度から割り出した数字]
  【30.0%】 タバコ
  【30.0%】 食事・肥満
  (5%)  運動不足
  (5%)  細菌・ウイルス
  (5%)  職業環境
  (5%)  遺伝性
  (5%)  周産期
  (3%)  生殖要因
  (3%)  飲酒
  (3%)  社会的ストレス
  (2%)  環境汚染・アスベスト
  【2.0%】 放射線・紫外線
  (1%)  医薬品
  (1%)  食品添加物
さまざまな因子がたくさんあるわけですけど、タバコが癌の原因の約30%ぐらいを占めている。
食事や肥満がやはり30%ぐらいになっている。
この二つでほぼ三分の二ぐらいを占めてしまうんですね。
そのほかさまざまな要因がありましてたとえば、胃がんなどはこのピロリ菌という細菌の感染が大きな影響を与えています。飲酒もありますし、社会的なストレス…、ストレスがありますと癌に対する免疫力が下がります。環境汚染もあります。
放射線・紫外線というのは合わせて2%ぐらいということなんですけれども、低線量被曝でこの部分が広がるリスクがあるものの、癌の発生には、生活習慣・環境が大きな要因になっていることがわかります。

もちろん、無用の被曝はできるだけ避けるのが原則であり、可能な限りあらゆる方法で除去するのも原則です。
しかし、放射線だけが癌の原因ではない、高齢化社会の今、癌が死亡原因の第一位になっていることを考えますと、癌になりにくい生活習慣や、なりにくい環境があるというなら、その知識に基づいて、癌にならない生活習慣を自分で判断し実践することができます。
社会的には子供のころから癌の予防教育、大人には生涯学べる制度をつくること、あるいは早期発見も大切なので癌に的をしぼった健康診断制度をつくる、そうすれば健康先進地域を作り健康日本の実現ということにもつながりまして、世界に示すことができるのではないかと思います。

くりかえしますが、無用な被曝は避けるのが原則であり、除染に力をつくすことは当然です。
それでも「知は力」といいますがそのとおりで、知ることによって私たちは自分で判断ができるし、安全かどうかの判断を他人に任せることなく自分で判断し選ぶことができれば、過度の心配や不安はなくなります。
そしてもっとも非倫理的な差別の落とし穴に、はまり込まないで済むというふうに思います。


書き起こし ここまで

ひなげし陽気』の中の「NHKと原発 2
の参考記事にさせていただきました。